gallery2

青木克世 展
- 白の秘儀 陶の呪文 -

会期 : 2005年5月2日(月)〜5月28日(土)
休廊日 : 日祝日

Art Newsは、ギャラリー2の展覧会カタログです。ここに掲載論文を御紹介します。

透明な装飾


青木克世の作品の多くは真っ白な磁土に唐草のくねりや、細い巻毛の輪郭や花のような文様が一面にひろがるロココ調のような装飾がほどこされている。壁にとめるレリーフ状のものや、王冠や錫杖のかたちは立てかけられたり吊るされる。
2000年「INAXガレリアセラミカ」で青木克世の展覧会をした。その頃のモチーフは、幼少時の身のまわりにあったものの影響が大きいのだという。洋館やドールハウス、少女雑誌のヒロインがまとうファッションやアクセサリーなどだが、すべてが白いそれらは既視なのに青木を通して全く別の貌をしてあらわれた。
ウエディングドレスやケーキを飾るデコレーションのような白く華やかでロマンチックな装飾。「華やか」や「ロマンチック」にたじろいだ。やがて「ロココ調のような」と、形容のことばが自分の口からとび出てきたとき、熱い塊のような気恥ずかしさが全身を走った。わたしはロココ調を知っているのか。その時代はどんな時代だったのか。既視なものが青木を通して全く別の貌をしてあらわれた。
かたちのすべてにレースの縁飾り、重たげなネックレスや垂れ下がり揺れるイヤリングを纏ったような作品は、だが白という色のちからと、若い作家の体感的美術力を通して、無意識に忘れようとしてきた装飾ということをきちんと見るように要求していた。装飾とひとくくり言い捨てて、きちんと見ないできたことを真っ直ぐに突いていた。
作家の無垢な表出が、おもいがけず多くの人々の無意識という隠蔽の蔵にあったものを査察してしまった。なにを根拠に装飾を野暮でうとましいものと思ってきたのか。過剰な装飾というときの過剰とはどんな質量で、どんな境界をこえるものなのかと問うていた。
静かで漲るような、装飾された青木克世の白いかたちは、磁土の壊れやすいという予見で、強い緊張へ誘う。作品が怖い。あの花はあの王冠はあの錫杖はただの装飾なのか。見るものの中にある呪術的な感情が一気に噴出してくる。
青木克世の作品があらわにしたのは、モダンやハイパーや時代感覚などと称する大量のガスを浴びつづけた、私や私たちの感覚の瀕死のさまだった。作品には、無限で無数なものやひとびとを限られた色だけに汚染する現代感覚という名の有毒ガスに抗う静かなちからが漲っていた。作品は、モダン、ハイパー、ロココ、民芸、アーリーアメリカン、イタリアンなんとか、アジアンなんとか、和のなんとかの商業おばけによって死に絶えた無数のものに捧げられた鎮魂と呪縛を解く法具のようだった。
新作に色彩が復活してきた。白いボディに透明に描かれた花々や蔓や滴のような図像の旗をもつオルレアンの少女は、もう風をきって進まなくてもいい。
色彩にもかたちにもなにひとつ固着せずに進みたいという作家が見えてくる。青木があらわすものに柔らかで香りや手触りや気配のニュアンスが感じられる。もう作品は怖くはない。

展覧会 TOP PAGE

INAXギャラリー2 2005年の展覧会


ページのトップに戻る

INAX | mail:xbn@i2.inax.co.jp (件名・メールタイトルは必ずお書き添え願います ) |
Copyright(C) INAX Corporation All rights reserved. 本ウェブサイトからの無断転載を禁じます。