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2002年ソウルスタイルその後
普通の生活 展
李さん一家の3200点

解説ページ

きわめて興味深い展覧会が大阪の国立民族学博物館で、2002年3月21日から7月16日まで開かれた。「2002年ソウルスタイル −李さん一家の素顔のくらし」展である。 ひとくちにいうと家族の持ちもの全部の公開であった。 この展覧会は、3つのことを観客に示しているように思われた。 ひとつは良くも悪くも〈他者を覗く〉という興味本位な部分。 ふたつめは個人の生活の中にあふれる〈もの〉を通して2002年のソウルに暮らす、平均的な生活者の姿を活写していたこと。 3つめは博物館の本性である収集する行為によって、結果として、ありふれたものが時代考証的な保存をされたことである。

とくにふたつめの一家にあるもの全部という、数量のある収集によって、〈もの〉に属している色、かたち、デザイン、材質等が必然的に見せてくれる時代の気分をも体現していて、展覧会によって、韓国 ソウルのものの、現在を体感できたことだった。 偶然の経緯をたどり、展覧会の主人公となった李さん一家の姿が、私たちに問いかけたものとは、《家族》とは何か、という普遍的でありながら、難問としかいいようのない問いだった。 その難問を〈もの〉だけを手がかり解いてみると、見えてきたのは、家族のかたちそのものだった。

2002年10月、李さん一家のその後を訪ねてソウルへ出かけた。前と後は変わったのだろうか。 会場では、訪問したとき印象を写真432点と文章で伝える。


李源台さんの奥さん・金英淑さんが本格的にパソコンを使いはじめたのは、家財のほとんどを、国立民 族学博物館に送り出すことが決まってからである。まずパソコンを買った。日本へ荷物を出した翌日か らの生活を不自由なくおくるには、インターネットショッピングが役立った。金英淑さんは生活のほと んど、家具や電化製品をはじめ衣料や下着までをインターネットショッピングで買いそろえた。毎日毎 日約2ヶ月にわたって、玄関には品物を届ける人や返品を取りにくる人がくるという不思議な光景が続 いたという。パソコンの効用で興味深いのは《家族》のつながりに用いていることである。親戚どうし がひんぱんにパソコンでやりとりをする「家族新聞」という個人サイトづくりが盛んだという。

いまパソコンは居間にある。ここでは、先祖祭祀などもおこなわれるが、ふつうは一家の人々が夕食後 や休日にテレビや新聞をひろげてくつろぐ場所である。居間には白い大型のイタリア製のソファが壁に そって配置され、窓からは外のアパート群がよく見える。その部屋の窓ぎわに、パソコンはかなりのボ リュームと面積を占めて設置されている。まるで主人がパソコンでソファや大型テレビなどは脇役のよ うに見える。

金英淑さんは、ベランダの3つの鉢の植物について話してくれた。この3つは、国立民族学博物館の展覧 会にも出品しなかった。これらは転居するたびに持ち歩いてきたもので、植物の成長に、思い出が重な っているからで、手放せなかったのだという。3つの鉢には、大小いろんな石も積まれているが、石ひ とつひとつにも《家族》の思い出がつまっているのだという。

台所は水道管の位置などにより〈収集〉前とほとんど位置は変わっていない。しかし、冷蔵庫は新しく なり、食器も全て新しくなった。目をひくのは祭礼の時に使う木製のうるし塗りのセットである。これ は欲しかったもののリストの上位にあった。

韓国独特の代表的な電気製品といえばキムチ冷蔵庫である。電気街に行くと様々なキムチ冷蔵庫が店先 の最も目立つ場所に展示してある。いうまでもなく、キムチ冷蔵庫の出現はソウル市の高層アパートの 建設ラッシュによってもたらされた。アパートに住む前は、初冬の頃にそれぞれの家で、大小さまざま な瓶にキムチが漬けられて軒先にも並んでいた。しかし暖房のきいたアパートでは瓶を置くことができ ないため、部屋の中でもキムチづくりができて、年間を通しておいしく食べられる保存性能をももった、 キムチ専用の冷蔵庫が発明されたのである。瓶のある伝統的風景は消えたが、ITを組み込んだキムチ冷 蔵庫はキッチンの主要な位置を占めている。李さん一家も今年大型のキムチ冷蔵庫を購入した。



関連リンク

日韓交流通信
http://www.jpf.go.jp/jkxx/j_index.html



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東京ブックギャラリーにて
2003年3〜5月開催



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